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梅雨入り前の晴れた日。検査の結果が出る日。
電車で2駅、自転車で15分の道のりをひとり 歩きました。

検査の結果を聞きたくない・・・聞かなければならない。どんな結果でも受け入れざるをえない・・・私に選択の余地はない。
手術をしてからは、ホルモン治療や化学療法、小さな検査を繰り返しながら、普通の生活リズムにも、なんとか戻れたころです。
ただ、心の中では自分の存在の小ささに、打ちひしがれていました。

わ・た・し・は   い・の・ち・は   なんてはかないものなのだろう。

歩いていくと、少し先の歩道わきに小さな廃屋がありました。住む人がいなくなって、朽ちていくままの小さな家が
なんだか自分のように感じて、思わず立ち止りました。

わたしは一生懸命生きてきました。わたしは頑張ってきました。幸せになる為に我慢することも必要なのだと知っています。
なのに!わたしに待っていたのは乳癌だったなんて・・・。

小さな廃屋に向かって呟いていました。歩きだすことも、目を逸らすことも出来ませんでした。

その小さな庭に紫陽花がありました。
歩きだしていました・・・紫陽花に向かって。

今はもう、誰も住んでいない小さな家の庭先・・・。
取り残されたような、まだちゃんと色づいていない情けないほど色もバラバラな紫陽花。

まだ梅雨入り前で雨も少ないし、「可哀想だな~」と側に立ちました。
覗きこむと、葉は萎れることもなくピンピン元気だし、茎だってシャンとしています。
「良かった!あなた元気なのね」

私がどんな風に思っても同情しても、紫陽花は生きられるように生きている。
今は情けない色だけど、いつか鮮やかに彩る日が来るのでしょうね。
乳癌になった時、家族から、友人から、たくさんの優しさをもらいました。治療をしている現在も、勇気づけてもらっています。

だから毎日明るくいることが、私の精一杯のできること・・・だから、笑顔でいるのです。

その花びら一枚一枚を見ているうちに、気がつきました。

私がこうして一人で歩くのは、笑顔じゃない顔でいたいから。ホッと一息つきたいから。

紫陽花のように、私も私らしく生きていれば良いかな? と、ちょっと元気になりました。
私らしく生きる・・・私らしいわたしは、どんなだったかな。

そのヒントは、手帳の中にありました。

手術前夜、手帳に祈りを、恐れを夜明けまで書き続けていました。手術の後も体調や感謝や不安を書きとめていました。
退院してからは治療と生活することに精一杯で・・・いえ本当は5年間が恐くて時間を止めたかったのかもしれません(5年生存率)。不安から逃れたくて時間を早く進めたかったのかも知れません(寛解まで10年間)。

混乱した私は、時間そのものを忘れたかったのでしょう。手帳には、日付のない生活の様子や気持ちなどが、ごく短い文章や言葉でたくさん書かれていました。
そんな手帳を広げたある時、誰もいない一人の部屋で、笑っている自分に気づきました。

その部分を白い紙に、丁寧に書き写しました。

声に出して読んでみました。笑っている自分の声に気づきました。

笑っていると、体中の力が抜けていきました。やがて、涙が溢れました。
泣いているのか笑っているのか分からなくなって・・・どちらでも良くなりました。
どんなことがおきようと、どんな風に見えようと、私はわたしらしくここにいる。
あの時の紫陽花のように。

何度も読み返しながら・・・時間に捕らわれ混乱していた自分に気づきました。それから、今ある幸せにこころから感謝をしました。

『病の気から元の気へ』わたしは私らしさを思い出しました。そして捉えどころのない漠然とした不安から解放されたのです。

そういえば紫陽花って小さな花びらの集まりですが、何となく大きなかたまりのようなイメージでしょ。
小さな花びらは、それぞれ色、形、大きさが微妙に違います。それなのに集って一つの大きな花になるのですね。
それぞれの個性が自己主張しながらも一つにまとまって、一輪の花。

 

私たちのこころの中には、いろいろな想いがたくさんあります。

嫌なところも、好きなところも、もちろんありますが、それぞれが集って、「私」という花になるのだと思いました。

大切なことは、じぶんらしく在ること。

ただ自分であり続けること。

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